心理テスト・心理検査とは、知能や発達の水準やパーソナリティ(人格)のあり方などを客観的に評価するためのツールと言えます。病院や学校、施設などで現在の状況を評価し、今後の支援に活かすために実施されます。どのような検査があるのか簡単にまとめました。
心理アセスメントについて
そもそも心理的な評価、アセスメントには、観察法・面接法・検査法・調査法があります。心理検査はこの中の検査法に分類されます。
病院などで心理検査を実施するとなると「私の心がすべてわかってしまうんですか?」「これで診断がわかるんですよね」と言われることがあります。
心理検査は客観性が考慮されていますが、その本体を指し示したり、暴いたりすることはできません。心そのものを検査によって明らかにはできないのです。
なぜなら、心は実在するものではなく、あくまで概念にすぎないからです。CTスキャン、MRIなどの検査であれば、病巣そのものを映し出すことができたりします。心理検査はそういったものではありません。
心理検査の分類
心理検査は知能検査/発達検査、人格検査に2つにわけることができます。知能検査や発達検査は対象者の知能や発達の水準を測定するものです。人格検査は対象者のパーソナリティ、性格、心理的特性などを測定する検査だと考えて頂ければいいでしょう。
さらに人格検査は質問紙法・投影法・作業法の3つにわけられます。質問紙法はアンケートのような用紙で「はい・いいえ」などを記入してもらう検査です。投影法は一定の刺激に対する(無意識的な)反応を見る検査、作業法は一定の決められた作業を行う検査となります。詳しくは次項で説明していきます。
テストバッテリーの大切さ
これらの検査はテストバッテリーとして、複数の検査を組み合わせて実施されます。それぞれの心理検査で捉えることができる範疇は限られています。例えば、知能を測定したり、無意識的なパーソナリティであったり、うつなどの特定な心理特性だったりします。
それらをテストバッテリーとして組み合わせることでより、多角的かつ立体的な対象像を見いだすことができます。もちろん、たくさんの検査をやることで時間や疲労、費用などの負担が増加します。対象者の状況に応じた適切なテストバッテリーを構築することも心理臨床の専門家として大切な能力と言えます。
知能検査・発達検査
知能検査として代表的なものは、WISC-IV、WAIS-IV、田中ビネーVなどがあります。発達検査として代表的なものは、遠城寺式乳幼児分析的発達検査、新版K式発達検査、Vineland-II 適応行動尺度、 PARS-TRなどがあります。
WISC-IV
WISC-IVはウェクスラー式の知能検査の児童版です。対象年齢は5歳から16歳11カ月です。
WAIS-IV
WAIS-IVはウェクスラー式の知能検査の成人版です。対象年齢は16歳から90歳11ヶ月です。
田中ビネーV
田中ビネーVはビネー式の知能検査です。年齢に分けられた問題群を実施するという点がウェクスラー式との大きな違いです。
遠城寺式乳幼児分析的発達検査
乳幼児の発達を発達グラフに表し、ぱっと見て対象時の発達の個性や遅れの程度を把握するための検査です。運動(移動運動・手の運動)、社会性(基本的習慣・対人関係)、言語(発語・言語理解)の3分野、6つの領域で診断することができます。
新版K式発達検査
0歳~成人までの発達の水準や偏りを「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域で測ることができる検査。発達指数(DQ)を発達年齢と生活年齢の比から算出することができます。乳幼児健診後のフォローや精密検査で用いられることが多いです。
Vineland-II 適応行動尺度
0歳から92歳という幅広い年齢帯に対して、適応行動の水準を客観的に数値化できる検査です。令和2年度の診療報酬改定で対象となりました。
PARS-TR
自閉スペクトラム障害(ASD)の発達や行動症状について、母親など主たる養育者を対象に半構造面接を行うことで、ASDの特性が存在している可能性を知るための検査です。57項目の質問から構成されており、幼児期および現在の行動特徴を把握します。現在抱えている困難さや支援のニーズ、手がかりを知るために有用な検査です。
人格検査
人格検査は対象者の人格=パーソナリティを把握するために実施される心理検査です。質問紙法・投影法・作業法の3つに分類されます。
質問紙法
質問紙法は「はい・いいえ・どちらでもない」などで答えることができ質問に対して回答し、それを元にパーソナリティや心理学的特性を顕わにしたり、タイプ別に分類したりする検査です。比較的短い時間で実施できること、実施は習熟した専門家でなくてもできること、集団で実施することができるというメリットがあります。
意図的に回答を歪めることも可能ですが、そうした歪曲を測定する項目が加えられている検査もあります。パーソナリティを図るタイプの検査では、投影法に比べて浅いレベルを測定していると考えられます。特定の特性を見るタイプの検査では、図ろうとしている項目だけしかわからないのがデメリットでしょう。
パーソナリティを測定するものとしてはY-G性格検査、エゴグラム、特性を図るものとしてはMAS、SDS(うつ性自己評価尺度)、MMPI(ミネソタ多面人格目録)などがあります。発達検査とかぶるものとしてはAQ日本語版やCAARSなどがあります。
Y-G性格検査
Y-G性格検査は120項目で12の性格特性を測定することができます。測定結果から5つの類型に分類することができるのも特徴です。MMPIのような妥当性尺度がなく、回答の歪みを判断できません。5つの類型はA型(Average Type):平均型、B型(Black List Type):不安定不適応型、C型(Calm Type):安定適応消極型、D型(Director Type):安定積極型、E型(Eccentric Type):不安定不適応消極型です。
SDS(うつ性自己評価尺度)
Zungによる「うつ性」を測定する自己評価尺度です。20項目からなり、重症度を評価することできます。医療機関にて保険診療で受検することが可能です。うつの検査としてはこちらがメジャーなものと言えるでしょう。
CAARS
CAARSは成人のADHD症状を測定できる質問紙尺度です。DSM-IVによるADHD診断基準と整合性があるのが特徴です。よく使う検査ですが用紙が高いのとまとめづらいのが困る点ですね。
WURS
WURSはADHDに関する自己評価尺度です。保険診療で受検ができるメリットがあります。養育者からの情報なしで、幼少期のADHDエピソードを同定するために用いられます。
投映法
投映法は「あいまいな刺激」を提示し、それに対して自由に反応してもらうことで対象者のパーソナリティを評価するツールです。「あいまいな刺激」しか手がかりがありませんので、反応を意図的に歪曲したり、隠蔽することが難しいのが長所です。その人が意識していない領域を探索することができることもあります。デメリットは解釈に職人芸が必要であり、熟練に時間を要することがあげられるでしょう。ロールシャッハテストやバウムテスト、TATなどが有名です。
ロールシャッハテスト
ロールシャッハテストはスイスのヘルマン・ロールシャッハによって1921年に考案された検査です。インクの染みが何に見えるかを問い、その内容や語り方を統計的に分類したり、継起分析することで対象者のパーソナリティや病的傾向を測定する検査です。意識化されていない部分を見ることができるのが特徴のひとつです。丁寧に分析すれば、さまざまな環境にどのように対処していくのかを見て取ることができますし、ざっと見ることで病態水準を推測することもできるオールラウンダーです。
バウムテスト
バウムテストはKoch,Kが考案した描画テストです。標準的な実施方法としては、A4の用紙に「1本の実のなる木をできるだけ十分に描いてください」という教示で果樹を描いてもらうというものです。紙と鉛筆さえあれば実施できる簡便さ、言語による説明が必要ないため子どもにも実施しやすい点などが特徴です。
バウムテストだけで性格がすべてわかるかのように説明されている記述がネット上では見受けられますが、あくまで補助的な検査であり、パーソナリティの一部分を描き出すと考えたほうがいいでしょう。でも、たまにホームランをかっ飛ばすテストバッテリーには欠かせない検査です。
TAT
TATは欲求・圧力理論にもとづく検査でMorgan,C.DとMurray,H.Aが「空想研究の一方法」として発表しました。原法では、第1系列、第2系列と教示を変えてそれぞれ10枚ずつ、2日に分けて実施しますが、日本では適宜、カードを選び一気に実施する短縮法が用いられています。さまざまな空想を示唆する場面を描いた図版を見てもらい、物語を作ってもらうという検査です。私の場合、臨床で用いることは殆どありません。
作業法
作業法は、足し算などの一定の作業を続けることを通じて、その作業内容を分析する方法です。人格の特性などを知ることができます。その長所は言語能力を必要としないこと、集団でも実施ができるという検査のやりやすさです。また何を図っているのかがわかりずらいため、回答の歪曲が生じにくいのもテストとして優れている点でしょう。短所は単調な作業を繰り返すという課題のしんどさなどが上げられるでしょう。代表的な検査として、内田クレペリン検査やベンダーゲシュタルト検査などがあります。
内田クレペリン検査
クレペリンが行なった作業心理の研究(作業曲線)に着想を得て、内田勇三郎が検査方法と妥当性について研究を重ね開発したものです。海外の心理テストを日本向けに標準化したテストではなく、内田が独自に心理テストとして完成させたものになります。1分ごとに1行・15分加算・5分休憩・さらに15分加算で実施。評価としては、数量的評価(PF判定)・個別診断的判定(B判定)・曲線類型判定(A判定)の3通りがある。5歳から実施ができます。
分類方法としては、曲線類型判定法で大きく24に類型化。反応歪曲、虚位反応、社会的望ましさなどの影響が少ないとされます。作業曲線に与える精神的因子としては、1: 意志努力 2:気乗り 3:疲労 4:慣れ 5:練習があげられます。性格・行動面の特徴を以下の3つの側面から把握できます。
発動性:ものごとへの取りかかり、滑り出しの良し悪し
可変性:ものごとを進めるにあたっての気分や行動の変化の大小
亢進性:ものごとを進めていく上での強さや勢いの強弱
ベンダーゲシュタルトテスト
ベンダーゲシュタルトテストは、ベンダーBender,L.が開発した作業検査です(投影法に分類されることも)。9枚の図形(M.ウェルトハイマーが作成)を用います。必要なものはA4用紙、2B鉛筆、消しゴムのみ。図形を1つずつ提示し模写させることで、脳の機能・器質的障害の発見に有効とされています。
解釈としては、児童用記録用紙 (コピッツ法)は5~10歳が対象、成人用記録用紙 (パスカル法) は11歳~成人が対象の2つが有名です。
臨床心理査定アトラス―ロールシャッハ・ベンダー・ゲシュタルト・火焔描画・バッテリー
コメント