資格の細かいところは分かりづらい
心理学の専門家になりたい!と思い調べたところで躓くのが資格の問題です。
心理に関する資格は、国家資格から市井の人が勝手に作った資格まで玉石混淆であり、そうした知識のない人には区別がつきにくいと思います。とんでもない資格に時間とお金を費やしてしまうと大変なことになります。
ただし、きちんとした心理学の専門家になりたい、心理カウンセラーになりたいと思う人が取る資格と限定するならば「公認心理師」「臨床心理士」の2択となります。というか、両方取りましょう。この2つの違いとどうしてもどちらかにするなら・・・という点について、説明をしていきたいと思います。
臨床心理士と公認心理師の歴史
まずは歴史的なところから見ていきましょう。
臨床心理士は1988年に作られた歴史のある臨床心理学に関する資格であり、文部科学省が主管となっています。決められた大学院を修了することで受験の資格が得られます。合格したあとも5年ごとの資格更新制度があるのが特徴です。
一方で公認心理師は2020年に誕生した新しい心理学の資格です。心理学に関する初めての国家資格であることが特徴です。受験するためには大学院、もしくは大学、特定の教育機関を卒業することが必要です。
臨床心理士・公認心理師になる方法については、別項で説明したいと思います。
公認心理師/臨床心理士の活動領域、専門分野について
公認心理師法 第2条には、公認心理師がどのような領域でどのような活動を行うかが記されています。以下が引用です。
保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を 行うことを業とする者をいう。
① 心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
② 心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、
指導その他の援助
③ 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、
指導その他の援助
④ 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
公認心理師法
また、資格認定協会による臨床心理士の専門業務は以下の4つだとされています。
- 臨床心理査定
- 臨床心理面接
- 臨床心理的地域援助
- 調査・研究
細かく説明すると
①は種々の心理テスト等を用いての心理査定技法や面接査定に精通していること。
②は一定の水準で臨床心理学的にかかわる面接援助技法を適用して、その的確な対応・処置能力を持っていること。
③は地域の心の健康活動にかかわる人的援助システムのコーディネーティングやコンサルテーションにかかわる能力を保持していること。
④は自らの援助技法や査定技法を含めた多様な心理臨床実践に関する研究・調査とその発表等についての資質の涵養が要請されること
と臨床心理士資格認定協会の項目では説明がされています。
ぱっと見て違いがわかるでしょうか? とてもよく似た内容だと思います。でも、少し違いがあります。書かれていない部分も補完しながら説明していきますね。
公認心理師と臨床心理士の活躍している分野
この2つの資格の活躍している分野を見ていきましょう。
公認心理師法には「保健医療、福祉、教育その他の分野」と書かれています。その他というのは「司法・犯罪、産業・労働」が相当します。公認心理師は 「保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働」の5分野が活動領域となります。
保健医療では令和2年度(2020)において公認心理師が診療報酬の対象となりました。福祉の分野でも平成30年度(2018)の障害福祉サービス報酬改定において、公認心理師がいると加算がつくようになっています。教育の分野では、私が所属する県ではスクールカウンセラーの採用条件に公認心理師が追加されました。他の件でも同様でしょう。産業・労働の分野では、平成30年度(2018)に労働安全衛生法に基づくストレスチェックの実施者として公認心理師が追加されています。国家資格の公認心理師が誕生し、確実にいろいろな領域に食い込んでいっています。
一方の臨床心理士に関しては、職域ははっきりと決められていません。しかし、臨床心理士は文部科学省管轄の資格です。教育が一つの柱となります。スクールカウンセラーは臨床心理士が条件となっているところが多く、20年以上渡って成果を上げていることが評価されています。
また臨床心理士が一番多く従事しているのが医療の分野です。しかし、残念ながら医療の分野ではこれまで「心理臨床技術者」として記されていた職務がすべて公認心理師に置き換わることが通達されています。つまり、保険医療の分野では臨床心理士のみでは活動ができないと言って差し支えがありません。
歴史のある資格なので教育、医療以外の分野でも活躍している臨床心理士さんはいらっしゃいます。ただし、臨床心理士だから優遇されるなどのメリットはありません。心理士さんの個人の資質で仕事を得て、活躍されているとも言えます。
公認心理師との違いで言えば、開業の問題があるかもしれません。公認心理師でも臨床心理士でもカウンセリングのオフィスを個人開業することは可能です。臨床心理の分野は歴史がありますのでそうしたノウハウも豊富です。公認心理師に関しては、公認心理師法第42条第2項「医師の指示」問題が開業臨床には影響しそうです。
まとめるとこのようなかたちになりますね。どうにも臨床心理士が不利ですね。
研究や教育、情報提供のあり方
4つの職域に関しての違いはどうでしょうか。
①~③に関しては概ね同じものと言ってよいでしょう。
④の解釈が分かれるところです。
まず指摘できる大きな違いは、臨床心理士には「研究」が責務として課せられていて、公認心理師にはそれがないという点です。最初のまとめに書いたように、臨床心理士は指定された大学院を修了することが課せられています。大学院では修士論文を書くことになります。問題提起となるテーマを探し、それに関連する論文を読み、自身の仮説を立てて、それを実証していきます。統計的な手法を使うこともあるし、事例での報告になる場合もあります。少なくとも研究者としての最低限のノルマはこなすことになります。
これは「科学者―実践者モデル (scientist-practitioner model)」と言われ、1949年アメリカのボールダーで開催された会議で確立されたものです。「心理学研究者としての科学的な態度」と「臨床心理士としての実践的な態度」の両方が心理臨床を行うものに必要だという考え方です。
諸外国では博士課程を修了することが研究者の一歩のように考えられていますので、日本の臨床心理士のカリキュラムはその一歩前の段階までと言えます。公認心理師のカリキュラムにも統計などは含まれていますが比べるまでもないでしょう。公認心理師の一人ひとりにまでそこまでの責務を求めないということと考えられます。もちろん公認心理師でもきちんとした研究、論文を書く人はいますが、裾野の広さが今後どうなっていくのか不安な部分ですね。
もうひとつ④で違う点は「知識の普及を図るための教育及び情報の提供」という点です。「④が大学や大学院の講義、研修会、勉強会、セミナー、事例検討会などと説明しているブログやTwitterがありますが、少し捉え方が違うように思います。
公認心理師法では第1条に「国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする」と書かれています。そのため、ここでいう教育や情報提供の相手というのは、学生や学びたい一部の人に対してではなく、「国民」が対象となります。
公認心理師は「国民の心の健康の保持増進」のために、教育活動をし、情報を提供しなくてはならないわけです。私がしているこのブログもそのひとつでしょう。業務以外でもそれを意識しなさいというニュアンスも入っていると思います。
また第40条には「公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない」と罰則規定が記されています。例えば、私がもし適当なことを書いてしまったり、とんでもない言動をして、それが公認心理師の信用を傷つけるようなものであれば罰則を受けることになります。
一方で臨床心理士にはそのような文言はありません。もちろん実践しても問題はありませんし、しなくても罰せられることはありません。倫理規定は別途定められているので、専門家としての一般常識的な立ちふるまいは必要となります。
簡単に言えば、臨床心理士のほうがより深く心理学に精通していると言ってもいいでしょう。国家資格ではないところに足かせが少ないと言ってもいいかは微妙なところですね。
公認心理師と臨床心理士どちらを選ぶ?
はい。どちらかひとつしか習得できないのであれば「公認心理師」をオススメします。霞を食って生活できるわけではありませんからね。就職を考えると公認心理師を優先となります。
でも、Twitterを見ると臨床心理士もがんばってるんですよね‥
うーん、やっぱり両方取りましょう。
現段階の心理カウンセラー、心理臨床家の評価はこんな感じだと思います。
公認心理師+臨床心理士 >> 臨床心理士 > 公認心理師 >>>> その他
最低限、能力を信頼できるのは数年以上、臨床経験のあるダブルホルダーですね。精神科分野での経験もあればさらにプラスでしょう。どんな療法を主としているのか、どんな検査を施行できるのか、ケース数は?と畳み掛けて確認すれば、さらに信頼度を確認することができます。
可能であれば、公認心理師+臨床心理士を目指しましょう。
カリキュラムはとても大変ですが、両方を習得できる大学院がありますので。
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