発達障害児への不適切な養育のリスクを考える(講義資料より) 公認心理師が解説3

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成長とともに発達障害の症状も変わっていく

発達障害を持つ子どもたちは、それぞれの自分なりのペースで成長します。そして、その子の苦手な部分、弱い部分も成長に従って変化が見られることがあります。例えばADHDの例を挙げてみます。主要な症状は多動性衝動性不注意の3つです。そのうちのどれが強く出るかは個人差があります。でも、生まれつきそうした傾向があったとして、それが一生変わらないわけではありません。ADHDで言えば、椅子に座っていられない、教室を飛び出してしまうといった多動の症状は成長と共に落ち着くことが多いです。

 

でも残りの衝動性や不注意は大人になる頃に収まるのが半分くらい、残りの半分はずっと症状が続くことが多いと言われています。実際、大人の精神科でADHD疑いで来る人のほとんどが不注意で社会適応できないという主訴になります。大人になって多動で困るからと受診される方は少ないです。

 

成長していくにつれて主な症状が収まってくる一方で、発達障害の特性を元にした二次障害と呼ばれる症状を呈する子が増えていきます。そもそも子どもが成長し、思春期になってくると二次性徴が起こり、自分の身体や心の変化に戸惑って精神的に不安定になりやすいと言えます。そして少なからず自分がまわりと違うんじゃないかと感じることが増えます。苦手なことがあるがゆえに何か失敗をしてしまう。そこで怒られたり、傷ついて自己評価が下がってしまいます

 

そこで視野の狭さや極端な考え方という発達の特性から「もう全部ダメだ」「自分はできないやつだ」「学校なんて行っても仕方ない」などと思い込んでしまい、さらに自分で客観視できない特性のために悪循環が続いて「うつ」になってしまう、不適応になってしまうことがでてきます。発達障害の子どもたちは、特有の行動や思考パターンがあります。それをまわりから理解してもらえずに適切なサポートを受けれずに「だれもわかってくれない」という疎外感や孤独感、味方がいないという思い込みが二次障害を起こす背景となっています。

 

発達障害に併存することが多い二次障害

 

具体的には表のような精神医学的な問題が二次障害として出てきやすいです。気分の落ち込みだったり,テンションが上がったり下がったりするもの,解離といって記憶が飛んでしまったりするようなもの,手を洗ったり,同じような行動を繰り返してしまったりするもの。そして、幻覚,幻聴,妄想などの統合失調症のような症状が出たりすることもあります。これは発達障害に限らず中学生くらいからぽつぽつ出てくる病気なので注意が必要です。あとは行動面でルールを外れたことをしてしまう子も出てきたりします。

 

こうした症状が出て学校に来れないようになってしまい,精神症状が出ている場合,学校や家庭での対処では間に合わないことが多いです。そのため、病院での治療が必要になります。投薬で症状を軽くしながら,現状に対処していくことになります。また失敗や傷つきの繰り返しによるトラウマ体験があったりするのでトラウマ処理の治療をすることもあったりします。手法としてはEMDRが有名です。

 

虐待を受ける子どもたちには精神疾患がよく見られる

  

発達障害を持った子どもは同じくらいの年齢の子どもに比べると、どうしてもできることが少なくなります。そうすると親からは積極的な指導、叱咤がなされたり、さらには暴力的な強制が起こってしまうことがあります。うまくできないことに対して、怒られたり、叩かれたり、無視されたりすることもあるかもしれません。そういう意味では定型発達の子どもに比べて、発達障害を持った子どもは虐待のリスクを上げてしまうと言えます。

 

一方で脳科学研究の進歩により、虐待が脳の発達を損なう可能性があることが指摘されています。激しい暴力やネグレクト、性的虐待などを繰り返し受けていると脳に損傷が生じうるのです。

 

こちらのリストを見てください。虐待が先か精神疾患が先かは判断が難しいところですが、元来持っている育てにくさや多動、コミュニケーションの問題などが育児に影響を与え、虐待へとつながっている可能性が考えられます。また、もともと定型の発達をしていた子どもが虐待を受けることでさまざまな精神症状を呈する可能性も考えられます。どちらのケースもありうるし、併存しているケースもよく見られます。

 

大人が関わることが子どものエネルギーとなる

 

家庭内におけるマイナスな育児が子どもに影響を与えるとすれば、どうすればいいのでしょうか。マイナスになるくらいなら何もしないほうがいいのでは?という意見を聞くことがあります。

 

実はマイナスな関りであっても、親からのかかわりは子どものエネルギーになります。きちんと向き合って、関わる時間を作ること自体が大切です。

ちょっと変わっていたり、育てにくかったり、覚えが遅かったりするかもしれません。でも、そのうち追いつくから大丈夫!とは安易に言えません。前述したように子どもの脳には可塑性があります。早いうちに良い関わりをすることで、子どもの将来の困りごとが減ることは大いに考えられます。まずはきちんと子どもを見て、引っかかるところがないかというアンテナを張りましょう

 

そして、いつでも良い援助ができるように、良好な親子関係を持つことが何よりも大切です。一緒に楽しめるもの、子どもが関心を持っているもの、親がホッとできる空間など、もの・人・場所・時間の工夫ができるといいですね。子どもも親もニコニコできるものを探すことをお勧めします。子どもがひたすら遊んで親が待ちぼうけでも、その逆でもない、一緒に楽しめるサービス、モノを探しましょう

 

それでも親のメンタルヘルスはうまく行かないことが多いですね。

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