統合失調症の概論・診断・疫学・治療について説明します。 lulu-web過去ログから

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本記事はlulu-web過去ログをリライトしたものです。元の原稿は1999年に作成したので内容的に古い記述も見られます。時代背景も大切な資料ですので、ほぼそのまま掲載しています。

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精神病(精神分裂病/統合失調症)の概論

精神病というのは精神科における中心的な治療対象であり、重い病気のひとつだと言えます。他の「こころ」の病気に比べると、遺伝との関係も深いようです。

もちろん遺伝病というわけではありませんが、近親者に精神病の人がいると、精神病になる確率がちょっとだけ高くなります。病気そのものが遺伝するというよりも、病気になりやすい体質、性格というものが遺伝するようなイメージを持ってもらうといいかもしれません。

また、統合失調症にかかった人の場合には、病気が落ち着いても「治癒」とは言わず「寛解」と表現します。いったん病気がおさまっても、また再発する場合が精神病では多いということです。それゆえ、一生おつき合いする覚悟が必要な病気だとも言えます。

うつ病にかかった人は、本人が苦しんだうえで受診されることが多いのですが、統合失調症の人や躁状態の人は、客観的に物事を見れないために治療への理解が得られないことがあります。

その場合、本人やそのまわりの人を「守る」ために、法に基づき強制的な入院となることも考えられます。
「医療保護入院」「措置入院」がこれに相当しています。詳しくは『精神保健福祉法』などを参考にしてください。

治療に関しては、薬物療法が中心となり、心理的な関わりは二次的なものになることが多いようです。

 

統合失調症の診断基準

DSM-Ⅳによる診断基準(要約)

(1)病気の症状が少なくとも6ヶ月間にわたって存在している。

(2)仕事の能力や社会的役割、身の回りの世話などの面で、以前より機能が低下している。

(3)器質性精神障害や知的障害による症状とは考えられない。

(4)躁うつ病を示唆する症状は認められない。

(5)以下のa、b、cのいずれか1つが認められる。
 a.以下のうち2つが少なくとも1ヶ月、ほとんどいつも認められる。
   ・妄想
   ・幻覚
   ・まとまりのない会話
   ・ひどくまとまりのない行動、あるいは緊張病性の行動
   ・陰性症状(感情の平板化、無関心など)

 b.当人が属する文化集団にとって、思いもよらない奇抜な妄想(例えば、自分の考えが頭から抜き取られると信じていること)。

 c.行動を絶えずあれこれ批評される幻聴、あるいは2人かそれ以上の声が会話している幻聴が顕著に見られる。

 

シュナイダーによる一級症状

1.思考化声
  >> 自分の考えていることが声になって聞こえるという体験

2.対話性幻覚
  >> 2人の人が対話をしている幻聴

3.自分の行動に口出ししてくる幻聴
  >> 何か行動すると「それをしてはいけない」などと声が言う体験

4.身体への非影響体験
  >> 身体が何かの力で動く。光線で食欲がなくなってしまうなど

5.思考奪取
  >> 自分の考えが抜き取られるという体験

6.思考吹入
  >> 考えが外から吹きこまれるという体験

7.思考伝播
  >> 考えていることが、周囲の人々にわかられてしまう体験

8.妄想知覚
  >> 知覚したことについて、特別の意味づけがなされる

9.行為体験(させられ体験)など
  >> 思考・感情・意欲の面における「させられ体験」

 

ブロイラーによる基本症状(4A)

 1.思考障害(連合弛緩)

 2.感情障害(感情鈍麻)

 3.自閉

 4.両価性

 

統合失調症の疫学

統合失調症というのは、脳がうまく働かなくなって、現実を正確に判断する能力が低下したり、感情のコントロールができなくなったり、適切な対人関係を保っていけなくなる病気です。

統合失調症の有病率は、1%前後だと言われています。精神科単科の病院に入院している患者さんのほとんどがこの病気の人です。数字上、有病率の男女差はないようですが、印象としては男性の方が多く、より重症の感じがあります。

発症のピークは男性が18~25歳、女性が26~45歳くらいだと言われています。しかし、中学生~高校生くらいの若年での発症や、晩年になってからの発症も見られます。

 

病因について

統合失調症の病因については、まだわかっていない部分が多いのですが、脳の機能に障害が合って起こる病気であるということは確かなことのようです。ドーパミンに代表される神経伝達物質の異常によって、脳内の情報伝達に混乱が生じているという考え方が代表的です。

こうした生物学的な弱さは統合失調症を発症する原因のひとつです。しかし、それだけで発症するということはなく、もっと複雑な要因が絡み合って発症するのだと考えられています。例えば、生物的に脆弱な人が精神的・身体的にストレスフルな状況におかれると、発症するリスクは高まります。

統合失調症は、遺伝病というわけではありませんが、遺伝的な要素も多少あるようです。有病率が1%なのに対して、両親もしくは兄弟に統合失調症にかかった人がいる場合は10%~15%程度にリスクが高まります。病気自体が遺伝するのではなく、生物学的な脆弱性が遺伝すると考えると理解しやすいかもしれません。

 

予後について

短期的な予後に関しては、抗精神病薬の服薬が適切になされているかどうかが大きな影響を及ぼします。この病気を初めて発症-寬解した後に、予防的に抗精神病薬を服薬しないと、1年以内に70%~80%の高率で再発すると言われています。

長期的な予後に関しては、1/3の人に顕著な改善がみられ、もう1/3の人はある程度改善するが再発することがあり、残りの1/3は重篤な障害を残すと言われています。

ただ、精神科の病気の軽症化が言われており、早期の治療がなされることが多くなってきた現代においては、重症例は少なくなっているような気がします。どちらかというと男性の方が予後不良なことが多いようです。

 

統合失調症の治療

薬物療法

統合失調症の治療は、薬物療法を中心に行われます。服薬は統合失調症の症状を緩和し、再発の予防と再発に伴う機能低下を防ぐために重要です。症状が激しい急性期には、抗精神病薬は特に効果を発揮します。また、症状が消失していても予防的に服薬することがとても重要ですので、継続的な服薬ができるかどうかが予後を左右します。

抗精神病薬には大きく分けて2つの種類があります。従来型の抗精神病薬は主としてドーパミンという神経伝達物質に作用し、統合失調症の陽性症状に効果があるとされています。この種の薬には、錠剤や散剤の他に液剤や筋注射剤(デポ)があり、目的によって使い分けられます。

代表的な従来型の抗精神病薬には、セレネース、コントミン、ヒルナミン、PZC、インプロメン、ドグマチール(商品名)などがあります。

もうひとつの種類は非定型抗精神病薬と言われるもので、ドーパミンとセロトニンという神経伝達物質に作用します。こちらの薬には、陽性症状・陰性症状のどちらにも効果が期待されています。

代表的な非定型抗精神病薬には、リスパダール(商品名)があり、他にも開発中の薬があるようです。

薬の効果には個人差がかなりありますので、「どの薬にするか、どの程度の量にするか、副作用の心配はないか」ということを主治医と相談していく必要があります。ですから、薬を飲んだ感じ(楽になった。ぼーっとする。そわそわするなど)、身体的な変化などをきっちり伝えることが必要です。

 

抗精神病薬の副作用について

どんな薬にも副作用はあります。統合失調症の人に投与される薬は、長期間服用する必要がありますので、副作用のことはぜひ知っておくべきでしょう。

ただし、自己判断で服薬を中断したり服薬量を調整しますと、症状が悪化したり、副作用が強まることがありますので、主治医に相談するようにしてください。

副作用としては、以下のものがあげられます。

 ■ 口が渇く、尿が出にくい、便秘
 ■ 身体のふるえ
 ■ 手足、あご、舌が動かせない
 ■ 動作がぎこちなくなる
 ■ 落ちつかず、そわそわする
 ■ 性欲の減退、無月経
 ■ 体重増加

副作用への対応としましては、次の3つが考えられます。

 ■ 薬の量を減らす
 ■ 副作用止めの薬を追加する
 ■ 副作用の少ない薬に変える

精神療法

統合失調症の治療に関しては、精神療法(カウンセリング)は二次的な位置にあります。

悩み事の相談、性格的な問題の改善というよりも、対人関係、社会生活に関する能力を改善するようなタイプの治療が効果的なことが多いようです。夢やイメージ、深い内容を取り扱うような治療は、症状を悪化させる可能性がありますので、慎重に選択しなければなりません。

そのため、一対一の個人療法よりも、デイケア、SST、作業療法などのグループでの治療がよく行われています。

ただし、統合失調症者が社会復帰していくための中間施設はまだ少なく、治療のための環境は十分に整っているとは言いがたい状況にあります。

 

 

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