ウェクスラー式の検査とビネー式の検査
知能検査には大きく分けるとウェクスラー式の検査とビネー式の検査という2つの流れがあります。ビネー式の検査はビネーBinet,A.とシモンSimon,T.が1905年に開発した世界初の個別式の知能検査からの流れを組むものです。
ビネー式の検査は「精神年齢(MA)」を算出するのが特徴のひとつであり、これはある年齢集団が50~75%正しく正答できる問題を当該年齢の知能水準を測定すると考えます。簡単に言えば、6才の子どもの50~75%が解ける問題は、精神年齢が6才であることを測定できると考えるのです。
もともとのビネー式では、知能指数(IQ)=精神年齢(MA)÷生活年齢(CA)×100という公式でIQを算出します。精神年齢が6才、実際の年齢が12才であればIQ=50となります。
田中ビネー知能検査Vの特徴
では知能検査として、田中ビネー知能検査Vはどんな特徴があるのでしょうか?
日本人向けに作られた知能検査
田中ビネー式の検査は海外の検査の単純な翻訳版ではなく、独自の問題に基づく設問が多く含まれた検査であることが特徴です。そのため、日本人の文化や生活にあった課題が中心であり、検査を受ける人も抵抗なくスムーズに受験できることが特徴です。
年齢に分けられた問題群
WAISやWISCなどのウェクスラーの検査では、それぞれの分野ごとに検査を実施します。例えば、知識であったり、計算のように測定するものが決まっていて、簡単なものから実施していくという手段を取ります。田中ビネーでは、そうした検査の実施方法ではなく、それぞれの年齢に応じた検査を実施していくのが特徴です。例えば、6才の問題、3才の問題というように分類され、その中に算数であったり、言葉の問題などが組み込まれています。
何をどのようにケアすればよいのかを考えるとき、「平均的な子どもより遅れている」あるいは「進んでいる」と言われても、具体的なケアの方法は浮かばないであろう。その点、年齢尺度で構成されているビネー法は、できなかった問題、あるいはできた問題の年齢的な基準が示される。子どもをケアするうえで年齢的な指標があるとイメージはつかみやすい。
https://www.chibatc.co.jp/cgi/web/index.cgi?c=catalogue-zoom&pk=69
検査を受けた人の状態像を説明する際に「6才の算数の問題はできるけれど、言葉の問題はできない」などと説明をしやすい、説明を受ける側もイメージを持ちやすいのがよいところですね。
独特なIQ算出方法
田中ビネー知能検査Vでは偏差知能指数(DIQ)が用いられるようになりましたが、以前からの精神年齢を測定し、生活年齢で割ることによって、IQを推定する検査方法も実施できます。
私が勤務するような精神科の病院で田中ビネー知能検査Vを実施するのはこちらの目的が大きいです。WAIS-IVではIQ40以下の数値を出すことができません。療育手帳や障害者手帳、障害年金などの公的な書類を医師が書く際の参考資料として、低めのIQ値が出せることは重要です。
DSM-5において、知的障害は「発達期に発症し、概念的・社会的・および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害」と定義され、IQの値だけではなく、適応の面からの評価も必要となっています。しかし、上記の公的な書類上ではIQが36なのか18なのか、53なのかの方が重要な扱いを受けるのが現状です。
今後はVineland iiとの組み合わせがスタンダードに
令和2年度の診療報酬改定で対象となったVineland ii とのコンビが今後の知的障害群への援助に活用されて、もっと細やかな支援がなされるようになるといいですね。
余談:検査用具を紛失した…
おっちょこちょいな私は用具をしまいこんで行方不明ということをたまにやらかしてしまいます。どうにも見つからず、購入先である千葉テストセンターさんに相談したら2000円程度で取り寄せることができることがわかりました。ほっとして、検査用具を見直したら用具が出てくるところまでがセットです。
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