本記事はlulu-web過去ログをリライトしたものです。元の原稿は1999年に作成したので内容的に古い記述も見られます。時代背景も大切な資料ですので、ほぼそのまま掲載しています。
うつ病の概論
うつ病について:抑うつ障害群/重篤気分調節症/うつ病/持続性抑うつ障害(気分変調症)
躁うつ病、躁病、うつ病というのは、それぞれ違う病気なのですが、ここでは細かく区別せず「うつ病」を中心に取りあげます。
誰でも元気がなくなり、落ち込んでしまうようなことってありますよね。うつ病になると、落ち込んでしまうことに加えて、しゃべり方や動作もゆっくりになってしまいます。また表情はかたく、顔色も悪くなってきて、考えることは「自分はダメな人間だ」などと悲観的な内容ばかり・・・。ほんとうに苦しい状況だと思います。
初めのころには、朝布団から出るのが億劫でしょうがない、朝刊が読めなくなったというように、これまで普通に行っていた日常的なことができなくなったりします。また、気分の変化よりも先に、寝つきが悪くなったり、食欲がなくなったり、食べ物の味がわからなくなったり、性的なことへの興味が薄れたりというような自律神経症状がでていることも多いようです。
こうした症状は、朝方悪くて、夕方から夜にかけて少し楽になるというように一日の中でも変動します。また、初老期・老年期の人の場合、「うつ病」になると妄想が出てくることもあるので注意しなければいけません。
「うつ病」になると、将来について絶望してしまったり、ささいなことで泣いてしまたり、言いようのない寂しさに襲われたり、他人に迷惑をかけているんじゃないかと思えてきます。また「消えてしまいたい」「自分が生きていては迷惑になる」という希死念慮も生じることもあります。
「うつ病」の人を見て「なまけている」「気合いが足りない」と言う人がいますが、誰も好きでなっているわけではありません。
「うつ病」には大きく分けて3つのタイプがあり、何かショックなことがあって落ち込んでしまったというような「こころ」が関連しているものは、その1つにすぎません。他の「脳」や「神経伝達物質」に関連が強いと考えられている「うつ病」にかかっている人のほうが、実際としてはかなり多いのだと思います。
この病気は遺伝の影響も少しあるようで、近親者に「うつ病」の人がいると少しだけ「うつ病」にかかる率が高くなることが知られています。病気そのものが遺伝するのではなく、落ち込みやすい性格やストレスに対する弱さのようなものが遺伝すると考えるいいかもしれません。だから、「うつ病」には、気持ちの問題だけではなく、脳の病気という側面があることは理解して欲しいと思います。
躁病について:双極Ⅰ型障害/双極Ⅱ型障害/気分循環性障害
躁病の方はテンションが上がってしまう病気です。
軽い躁状態の時は、気分が高まって、気力がみなぎっており、心身共に調子が良く感じられます。よくしゃべり、ずいぶん社交性になったりしますし、睡眠時間をとらなくても平気なことが多いようです。
まだ、この段階では社会適応していくことができ、時には仕事の効率もあがったりするかもしれません。
しかし、本格的な躁状態になってくると、まわりに迷惑がかかってくることが多くなります。気分が高揚して、注意が次々に変わり、いろいろなことをしゃべりまくり、夜も眠らずに活動を続けます。
躁状態と言うと、一見楽しくてしかたがないような印象を与えるかもしれませんが、実際はすぐに攻撃的になってイライラしたり、ちょっとした刺激で怒りやすくなったりすることが多いようです。
また、じっとしていられずに、お金を気前よく使いまくってしまったり、性的に奔放になったりもします。自分はなんでもできる、すごい人間であるという誇大感が強まって、やや妄想的な言動がみられることもあるようです(例えば「自分は超能力者だ!」など)。
躁うつ病を理解するための書籍としては、「躁うつ病はここまでわかった」が治療の実際をうまく描いていると思います。また、自分でできる治療として認知療法関係の本が役立ちます。「「うつ」を生かす―うつ病の認知療法」が有名な一冊です。
うつ病/躁うつ病の診断
DSM-Ⅳでは、「躁うつ病」「うつ病」「躁病」という診断名は使われなくなっています。また、概論のところで主な特徴は説明したので、ここでは5つの領域ににおける特徴をあげるだけにしておきます。
[感情]
気分が沈み込んだり、悲しい気持ちがあふれてきたりすることがあります。よくわからないけれども何となく不安を感じたり、ひどくなると自分の感情が凍りついたようになってしまい、何も感じることができなくなったりします。
[意欲]
エネルギーが無くなったように感じられて、いままで興味があったことに関心がなくなることがあります。それが進むとすべてのことから逃げ出したくなることもあります。一日中、何もしないでぼーっとしていることもあるようです。
[行動]
自分の世界に閉じこもって、まわりとの接触を断つようなことがあります。何かしようと思っても、それをなかなか行動にうつせなくなります。また、時には突然動けなくなる「行動抑制状態」に陥ったり、行動できずに気持ちだけが焦って落ち着きを失うようなこともあるようです。
[認知]
判断力や集中力が鈍ってきます。そのため、記憶力が落ちる傾向があるので気をつけないといけません。また、考えがまとまらなくなり、ついには突然考えが止まってしまいう思考制止状態になるようなこともあります。
こうした特徴が出てきたときに「うつ」ということに気づいていないと、「自分の能力が落ちてしまった」「ボケてきたんじゃないだろうか?」という思い違いをすることになりかねません。
[身体]
寝つきが悪くなったり、何度も目が覚めたり、早朝に目が覚めたりします。また、たくさん睡眠時間をとっても、ぐっすり寝た感じがしなくなるようです。緊張が強いためか、肩がこったり、頭が痛くなったりすることもあります。食欲や性欲が減退したり、逆に亢進したりすることもあるようです。
「うつ」の精神症状に気づかずに「からだ」だけの症状が気づかれている場合を「仮面うつ病」と呼ばれます。
うつ病/躁うつ病の疫学
うつ病は、精神科の病気としては、多く見られる病気です。
一生の間に、女性は20%、男性は15%前後の人が、うつ病にかかると言われています。
有病率も4~5%と言われており、統合失調症と比べても4~5倍の数字になっています。どちらかというと、女性の方が罹患しやすいようです。
発症のピークは、20代と40~50代ののふたつの山があります。
++ 病因について ++
うつ病には3つの種類があります。脳の病気として「うつ病」、脳の伝達物質の異常として「うつ病」、心の病としての「うつ病」です。前者の方が身体器官の病気としてのニュアンスが強く、後者は心の病気としてのニュアンスが強くなりますが、両者は複雑に絡み合っています。
うつ病は、遺伝的な要素も強いと言われています。ただ、統合失調症の項でも述べたように、病気自体が遺伝するのではなく、落ち込みやすさ・落ち込みに対する脆弱性というものが遺伝すると考えられています。
++ 予後について ++
うつ病で何よりも危険なのは「自殺」の可能性があることです。
ある統計によると、適切に診断されなかったり、治療が不適切であったうつ病の人は、自殺者の50%~70%を占めていると言われています。
うつ病は、適切な治療を受ければ数ヶ月から1年内外で治癒することが多いのですが、まれに数年に渡ってうつ状態が遷延することもあるようです。
うつ病が改善した場合、一番大切なのは再発を予防することです。性格的に無理をしやすかったり、細かいことを気にしてしまったりするので、生活の仕方を少し変えることをお勧めする場合もあります。また、少量の抗うつ薬を飲み続けるといった維持療法なども、再発防止のために行われています。
うつ病/躁うつ病の治療
うつ病の治療
うつ状態のときは、将来に希望が持てなくなっていて「自分は治らないのではないか?」と思ってしまうこともあるかもしれません。
ただ、うつ病は人口の10%以上の人が、一生のうちに一回はかかる病気であり、特別な病気というわけではありません。それに今日、治療法もほぼ確立されており、どこの病院に行っても適切な対応をしてくれるはずです。もちろん、すべての人、すべての症状が改善されるというわけではありませんが・・・。
さて、うつ病の治療についてですが、ポイントはたっぷりと休みを取ること、そして薬をちゃんと服用することの2つでしょう。
治療の中心は薬物療法であり、薬に加えて心理療法を併用することによって治療効果があがることが多いようです。
薬物療法は、三環系または四環系の抗うつ薬を中心にして、睡眠導入剤や抗不安薬を組み合わせることが多いようです。また最近ではSSRIという副作用の弱い抗うつ薬も使えるようになっています。
基本的に、抗うつ薬というのは、1週間から10日ほど飲み続けないと効果が出てこないと言われています。坑うつ作用よりも先に、副作用が出てきてしまうので服薬をやめてしまう人もしばしばいるようです。
抗うつ薬はいろいろな種類のものがでており、どの薬も6~7割の人に効くようなのです。だから、どの薬が合っているかを探すのに時間がかかることがあります。
時には、抗うつ薬を服薬していても、忙しく仕事をしていたりで十分な休息を取っていないと、治療効果があがらないようなこともあるようです。現実的にはなかなか難しいかもしれませんが、治療のことを考えると、ゆっくりと羽を伸ばすためのまとまった休みを取るほうが好ましいと思います。
重度のうつ状態であったり、薬アレルギーの人には、ECT(電気痙攣療法)が行われることもあります。luluは、この療法には反対です。というのは、自分がこれを受けるのは嫌ですし、脳へのダメージはないという意見に疑問があるからです。
心理学的なアプローチとしては、認知療法や対人関係療法などの現実的なアプローチをする手法が効果をあげているようです。簡単に言うと、うつ病の人に特有な対人関係パターンや認知(ものの見方)のクセを、話し合いを通じて、より現実的なものに変えていくのです。
luluの印象では、抗うつ薬と心理療法は、違うところにアプローチしているような気がします。だから、併用すると相乗効果が出るのでしょうね。
治療を経て、うつ状態から回復してきたときに気をつけるべきことは、意欲が出てきたからといって、あせって無理をしないということです。もとの通りに戻ったと思っていても、前に比べて余力が減っていたり、ちょっとしたことで消耗しやすかったりすることが多いので、たくさん休息をとるようにしたほうがいいでしょう。
躁うつ病の治療
躁病の治療に関しては、薬物療法が中心になります。リーマス、テグレトールといった気分安定剤を飲むことで躁状態は落ち着きます。また、この薬は再発の予防効果をもっているので調子が落ち着いた後も飲み続けることが好ましいようです。
躁状態がかなり強く、気分安定剤だけでは十分でない場合、活動性を抑えるために抗精神病薬が用いられることもあるようです。
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